川崎競馬の音楽

2025-12-19

コラム:馬を訪ねて三千マイル

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2000年代前半の南関競馬はすべてがすばらしかった。

少しずつ観客が減ってうらびれていくさまもすばらしかったし,まだ昭和のスタンドが残存していて指定席なのに風を感じられたのもすばらしかったし,昭和の飲食店がたくさん残っていて大して美味しくはないのだけれど「ハレ」の雰囲気を演出しているのもすばらしかった。

それに加え,川崎競馬と大井競馬は音楽がすばらしかった。

川崎競馬の締め切り前音楽の衝撃。ナイターなんてマット・キャティングブですよマット・キャティングブ。大学1年のときジャズ研のOくんに「わかりやすいけど実はすごいCD貸してくれ」と言ったら貸してくれたのがソニー・ロリンズの「+3」とマット・キャティングブの「I'm Getting Cement All Over Ewe」だった私にとって,マット・キャティングブに急かされてマークシートを塗るなんて,借金まみれの爺さんやアンチソーシャルグループ(カタカナにして何かを薄めようとする政治的配慮)に所属なさっていそうな方々が多そうな川崎競馬のイメージを覆すものだった。

マット・キャティングブは基本的にわかりやすい。そもそもビッグバンド自体日本人が小学校中学校で慣れ親しんでいる鼓笛隊・吹奏楽部の延長線上にある音だからわかりやすいのだ。がしかし,マット・キャティングブはリズム,コード進行とも基本的にはオーセンティックでキャッチーなのに,コンテンポラリーな音作りでちょっとだけ定番からは外れたコードやリズムを盛り込んでくる(このあたりポストバブルのわかったふり音楽評論を彷彿とさせるカタカナを敢えて多用)。そこに微かに漂うハワイ出身ならではのトロピカルなスパイス。だからベースがかっこいいしメロディを歌う管(主にトランペット)のハイトーンが映える。ごく簡単に要するとマット・キャティングブは「キャッチーなのに飽きない」曲なのだ

で,よく考えるとこの「キャッチーなのに飽きない」ってのは締め切り前BGMにとても必要な要素なのである。なんとならば1日に12回,1週間に50回から60回も聞かされるのだ。変に小難しすぎてもダメだしすぐに飽きてしまうようなものでも困る。ちょうどRPGのフィールド曲や戦闘曲のようなものだ。すぎやまこういち先生最大の名曲の1つドラクエ4の通常戦闘曲だって,すぎやま先生特有のメロディアスでキャッチーな旋律の中に,いきなり9/8→2/4→7/8の変拍子が畳みかけてくるから聞き飽きない。それとおなじようなものだ。

とにかく,締め切り前に(ちょっと丸くなってからの)マット・キャティングブの「Dancin'(アルバム「Swing Era」)」を持ってきた人は相当わかっているし,びっくりするほどいろんな音楽を知っていたはずで,その膨大な脳内音楽ストックの中からあえてこの曲を選んだはずなのだ。あと,締め切り前BGMにするため曲がループされているのだが,このループの継ぎ目部分でわざと半拍詰まらせているのである。これはまず間違いなくわざと休止間隔を短くしてループされている。それによりつんのめり感・前のめり感を出して焦らせる手法をこの曲を選んだ(そしてループ編集した)人は意識したはずだ。ちょうどドラクエ4の戦闘曲の中間部で2/4を差し挟んで躓かせているのとおんなじだ。2000年前後の川崎競馬には相当な音楽好きがいたに違いないのである。

川崎競馬はファンファーレもすばらしかった。旧重賞ファンファーレ,今も使われている一般・準重賞ファンファーレともにまず曲の出来が異常。どの曲も完全終止しないため曲が夜空に静かに消えていく。「ファンファーレ作ってください」って頼まれたら普通気持ちよく終止させたくなっちゃうでしょう?でも川崎競馬の旧ファンファーレはどれも完全終止じゃない。ここ(ファンファーレ)がメインじゃないですよ。なんだか続く感じがするでしょう?本当のメインディッシュはこのあとのレースなんですよ。ということを体現しているのである。この利他的な作曲。競馬ファンフーレのなんたるかお手本になるような作り手の意識。もうこれだけでも異常なのに,ロジータブラスになる前の録音にはせつなさがあった。今の音源はブラスだけになってしまったけれど旧録音には弦が入っていた。打楽器も今はスネアドラムになってしまったけれど旧録音はティンパニだった。水葬が…とかいってブラスを腐すつもりはないけれど弦や打楽器が作る音の奥行きとその奥行きが創り出す空に消える音場(競馬ファンファーレはこの空に消える感覚がとても大事だと思う)が絶妙にせつなかったのである。締め切り前の発売中音楽とファンファーレを聞くだけでも川崎競馬に行く価値があった。馬券は衝撃的なくらい当たらず外れるたび「この川詐欺が!」と罵っていたが,音楽が好きすぎて結構好んで買っていた競馬場の1つなのである。

大井競馬のファンファーレについても話したかったのだが長くなったから一旦ここでおしまい。次回は大井のファンファーレについてです。




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